YOU CAN (NOT) REDO.

厨二はじめました。

(ss)TinyDogs


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私のポケットには犬がいる。50年前に巻き起こった小型犬ブームは一部の愛好家の間で加熱を続け、体長14cm、重さはたった25gほどの小型犬を生み出した。このポケットの住人はひどく人見知りするようで、吠える度に手を焼いた。会社では大人しかったのだが、先日からやってきた新しい上司に対しては小さな唸り声をあげるようになった。鼠小僧のようなドブ臭い体臭を放ち、キョロキョロと周囲を見回して揉み手をするこの上司のことは、私も好きになれなかったが、こういった空気が犬に伝わったのだろう。ただ、歓迎できないことに鼠小僧にも伝わったようで、彼は些細なことで私を叱り飛ばすようになった。朝礼の準備や工場の閉館などといった、皆が嫌がる仕事ばかりを回されるようになり、睡眠時間はきゅうきゅうに削られた。小さなミスも増えていった。ミスをする度にビアノ線で心臓を締め付けられるような思いになり、毎日の食事は喉を通らなくなる。ミスはますます増えていった。ある日、「3日後までにこれを組み立てろ」と渡された赤い飛行機の模型を組み立てて提出すると「誰が模型を組み立てろと言った?作れと命じたのは飛行機だ」と怒鳴り散らされた。そのとき、ポケットの住人がポケットから飛び出して、彼に向かって吠えた。鼠小僧は犬が大変苦手だったのか、すぐさま荒唐無稽な指示を取り下げるかわりに、私の給料を半分に減らした。また、この日から犬はよく吠えるようになった。サルグツワを買ってはめると大人しくなったが、今度は餌をやる金がなくなってしまった。だが、犬は不思議なことに、弱るどころか日に日に大きくなっていった。いつまでも手のひらに収まるわけもなく、次の給料日に首輪をつけて鎖で繋いだ。当然、サルグツワも大きさが合わなくなり、ミシミシと音を立てるのが常になった。首輪もどんどん小さくなり、犬の首を絞めた。餌をやれなくなって3か月がたったが、どんどん大きくなる犬は、私の倍ほどの大きさになった。首輪は壊れては買い直し、住み慣れた部屋も狭くなって引っ越した。サルグツワだけはなぜか壊れずに、犬の口からはだらしなく黒い血が滴っていた。一方で私の空腹も増していった。犬の首輪と家賃と引っ越し代だけで、減らされた給料はなくなってしまう。すかした腹は、犬の口から滴り落ちる黒色で満たすようになったが、周りの人間達は全く気にもとめなかった。そんなある日、鼠小僧は思い出したように叫んだ。「オマエが命令をすっぽかしたせいで、王様に献上する飛行機が一基足りなくなってしまったぞ!」犬はついにサルグツワを破り、人間を一人、喰い殺した。その場に残されのは、朱い泥溜りと、ひきつりつつもほくそ笑む鼠小僧だった。彼は犬を恐れていたが、「犬ども」もまた、彼の体臭を苦手とすることを、彼は知っていたのだ。